「――お誕生日、おめでとうございます」
「ああ、ありがとう」
電話越しから貰う彼女からの祝いのメッセージに、手塚は心が温まる感覚を覚える。
つい先ほどまで、部員たちから同じ状況で同じ言葉をかけてもらったというのに、一体何が違うのだろう。自身に問いかけずとも、彼は既に答えを知っていた。
いつもの声音で礼を述べると、静の小さな笑みが耳をくすぐる。
「……どうした?」
「いえ、国光先輩の誕生日を祝えて嬉しいなって思って……片想いだって思っていた頃からは、想像できないです」
学園祭が終わっても、隣にいられること。遠く離れていても、心が繋がっていること。大好きな人の生まれた瞬間を祝えること。
片想いの時期が辛かった時もあったはず。距離を感じて寂しい時もあるだろう。けれども彼女はそれら全部をひっくるめて、嬉しそうに笑う。
はにかむ静の姿が脳裏に浮かぶと、そこでようやく手塚の口元が僅かに上がった。
「あの、欲しいものはありますか? 今すぐはあげられませんけど……先輩がこっちに帰ってきた時、渡したいです」
「気を遣う必要はない。俺は……」
――お前の笑い声が聞けただけでいい。
次に届いた彼女の問いかけに、流石にそんな台詞は言えなくて……。
「……先輩?」
「いや、なんでもない」
彼はただ、首を振るだけだった。
title by :capriccio