「よし、これでええやろ」
自室にて、白石は文字でみっちり埋まった白紙を見て、一人満足げに笑う。
そこに書かれていた文章は要約せずとも、デートプランだった。
――事の始まりは、数日前。
氷帝テニス部部長である跡部の提案で、四天宝寺中テニス部も合同学園祭に参加することになった。
他校との交流を目的とする(まぁ、他にも目的はあるだろうが)当学園祭は、関西出身の自分達にはとても良い機会だと思ったのだ。
学園祭終了後、少しして開催される全国大会の為にも、関東の強豪校の選手達と関わることは間違いなく彼らにとってプラスになるだろう。
『初めまして、山吹中二年、広瀬静です』
『ああ、よろしくな。広瀬さん』
その中で、白石はラッキー千石と呼ばれる千石清純や、百年に一人の逸材と呼ばれる亜久津仁のいる山吹中の部員たちとともに二週間近くを過ごすことになった。
そして、運営委員として山吹テニス部をサポートする広瀬静という少女と出逢う。
今日までに一緒に作業をやってきた時間は短かったけれど、白石には全く関係なかった。
『白石さん、何かお手伝いすることありますか?』
『広瀬さんか。あれ、自分の仕事はどないしたんや?』
『もう終わりました』
『早いなぁ。なら、少し休んでたらどうや?』
『いえ、皆さんのサポートをするのが私の役目ですから。仕事があるなら、お手伝いします』
『……自分、ええ子やな』
『そんなことないですよ。運営委員として当たり前のことを言ってるだけですから』
『そういうとこが、なんやけどな……』
『えっ?』
『あ、いや。うちの後輩にも広瀬さんみたいなヤツやったら、良かったと思てな』
『後輩……?』
『ああ、自分と同じ学年の後輩がおるんや。名前は財前って言ってな――』
頑張り屋な運営委員さんは、彼の中で急速に気になる女の子へと。
しかし、二週間近くの期間が過ぎれば、白石は大阪へ帰らなければならない。
それを寂しい、と思うのは何故だろう。
まだこの準備期間が続けばいいと思うのは。
胸を燻る熱の正体は――恋と呼んでいいものか分からないほど、小さくて。
けれども、確かに白石の鼓動を大きくさせる。
果たして、次第に大きくなっていくものなのか。
先の未来がどうなるかなんて、白石には分からない。
だからこそ、それを確かめる為に明日の日曜日、静をデートに誘おうと計画したのだ。
「天気も……大丈夫みたいやな」
明日の天気を予報するおじさんが、にっこり顔で笑っているのを見て、よしと頷く。
女性をデートに誘うことなら、誰だってやれる。
問題はその後の展開をどう運ぶことだと、白石は考える。
基本に忠実に。
完璧だけを良しとする白石にとって、静とのデートもそれに従おうとしていた。
無理に虚勢を張って、相手を楽しめようとした結果、大失敗……なんてナンセンス。
ならば例え、例通りで面白みもないものだとしても、それを完璧にすれば最高のものになるはずだ。
雑誌で美味しいと評判のヘルシー料理を一緒にとって。
最近上映されたばかりの韓国映画の観賞をして。
ああ、そうだ。休憩として喫茶店に入るのもいいかもしれない。
その後はショッピングがてら談笑しながら歩いて。
その合間に彼女に渡すプレゼントを買おう。
あまり高価な物はかえって気を遣わせてしまうだろうから、その辺はその場で考えるべきだろう。
……そして最後の締めには、東京(こっち)に来て見つけた美しい景色を眺めて――。
少々書き加えたところを見直すついでに、もう一度書き上げた予定表を見つめる。
明日までにちゃんと頭の中で流れを把握しておかなければ。
当日あたふたして、彼女をスマートにエスコートできないのは、とてつもなく格好悪いことだ。
彼女に気を遣わせても駄目である。
「……これで完璧や」
自信満々に頷いて、白石は携帯を取り出した。
『もしもし?』
「こんばんは。白石やけど――」
間もなく機械越しから聞こえてきた了承の返事に、白石は明日が最高の一日になるだろうと確信して、にこりと微笑んだ――。
title by : ララドール