愛のままにハグ!

 ――ゲームセット! ウォンバイ、越前! 6ー2!
 審判のコールが高らかに響くと、青学のベンチが歓声に沸いた。仲間の声を聴いて、コート上で息を整えながら汗を拭うリョーマもにやり、と微笑む。
「リョーマくん、すごい……!」
 選手達に混ざりながら、恋人の闘いを固唾を呑んで見守っていた静は、そんなリョーマの姿に安堵と喜びの息を吐いた。
 今日の対戦相手には体格差もあってか、序盤は追い詰められてしまい、ハラハラしたものの、流石は越前リョーマである。中盤からは技術力で追い上げ、最後は見事勝ち星を挙げた。
 それは同時に青学チームの予選突破を意味していた。
 学校へ戻り、部室にて本日の反省をしたところで全員解散となった。
 静は大会での試合内容と反省会で出てきた意見等をノートにまとめ、それを顧問の竜崎先生へ提出し終わったところで、部室で待っているリョーマの元へ走る。
「お待たせ、リョーマくんっ!」
「もう帰れるの?」
「うん」
 会場から学校へ帰るバスの中で睡眠を取っていたからか、疲れは少し取れたらしい。静の返事に、しかしリョーマはまだ眠そうな顔で立ち上がった。
「疲れてるのにゴメンね」
「別に俺が勝手に待ってただけッス」
「ありがとう。でも、今日は本当にお疲れ様。対戦相手の人、強かったね」
「……ふーん? 先輩にはそう見えたんだ」
 不服そうな声音に気付きながらも、静は言葉を続ける。
「だって最初の方、ゲーム先制されていたでしょ? 相手の人のスマッシュも力強くて、リョーマくんのラケットも一度弾かれちゃったし……だから少しだけ不安だったの」
 例え「リョーマが勝つ」と心の底から信じていても、審判が相手選手のポイントをコールする度にドキドキしてしまった。
「パワースタイルだったからちょっと押されただけ。ラケットが弾かれたのは、俺の握り方が甘かったから。力が強いって言うけど、寧ろその力に任せたばっかの球が多かったし」
 その後すぐにポイント取り返したじゃん、と饒舌に反論するリョーマ。もしかしたら――否、もしかしなくても恋人が自分の勝利を一瞬でも信じきれていなかったことに拗ねているらしい。
「うん、2ゲーム目からはずっとポイント決めてたよね。すごくカッコよかった」
「っ、」
 しかし静がにこやかな笑顔でそう言うと、リョーマは面食らったように歩みを止めた。
「リョーマくん?」
 が束の間、リョーマは早歩きで静を置いていってしまう。
 予想していなかった反応に、テニスプレイヤーへ向ける賞賛の言葉としては最適解ではなかったかも、と考えた静は慌てて追いかけた。
 いよいよ怒らせてしまったのなら謝らなきゃ、と思い、再び隣に並んで彼の顔を窺うと。
「ひょっとして……照れてる?」
「照、れてない」
 その頬は赤みを帯びていて、リョーマが口にした否定の言葉を支持するものではない。何よりも目を逸らしたのがいい証拠だ。
 その様子は、数時間前にコート上に立っていた姿とは全く異なっていて。それがなんだかとても愛らしくて。愛おしくて。
「……ふふっ。リョーマくんっ」
「なに笑って……ちょっ!?」
「とっても、カッコよかったよっ」
 ギュッと抱きついて、もう一度はっきりと褒め言葉を贈るのだった。

@リョ静の場合: 先に歩く相手の背中が愛しくて思わずおもいきり飛びついた後、
 しばらく可愛い恋人を抱きしめました。
Thanks by : ほのぼのなふたりの甘い日々